労働災害によってご家族を亡くされた場合、ご自身や残されたご家族の生活を守るためにも、適切な補償を受け取ることが必要不可欠であるはずです。
このような場合に、正当な補償を受けるための方法としては、大きく、
- 労災の請求(申請)
- 会社に対する損害賠償請求
の2つが考えられます。
このページでは、それぞれの方法の内容について、詳しくご説明していきます。
1 労災の請求(申請)
労働災害(業務災害や通勤災害)によってご家族を亡くされた場合、受給資格のあるご遺族は、労働者ご本人の勤務先(事業場)を管轄する労働基準監督署に対して、労災保険の「遺族(補償)給付」と「葬祭料(葬祭給付)」を請求(申請)することができます。
なお、労災保険給付の名称については、業務災害の場合には「補償」が付きますが(○○補償給付)、通勤災害の場合は「補償」が付きません(○○給付)。
「遺族(補償)給付」の場合、業務災害であれば「遺族補償給付」、通勤災害であれば「遺族給付」が名称です。
「遺族(補償)給付」には、「遺族(補償)年金」と「遺族(補償)一時金」があり、被災した労働者とご遺族との生活状況などに応じて、いずれかが支給されます。
また、ご葬儀を執り行ったご遺族は、「葬祭料(葬祭給付)」を請求できます。
注意しなければならないのは、労災の「遺族(補償)給付」は、ご家族の死亡日の翌日から5年を経過すると、請求権が時効によって消滅してしまうということです。
また、労災の「葬祭料(葬祭給付)」に至っては、ご家族の死亡日の翌日から僅か2年を経過することによって、請求権が時効によって消滅してしまいます。
さらに、会社に対する損害賠償請求は、労災の認定を受けた後に行うことが多いのですが、会社への損害賠償請求権にも消滅時効があります(※令和2年4月に施行された民法の改正により、改正前と後とのいずれの条文が適用される事案であるかによって、時効消滅までの期間が異なります。詳しくは弁護士までご相談ください)。
残されたご遺族は、大切なご家族を失うこととなり、何も考えられないご心境かもしれません。
しかし、大変心苦しいのですが、労災の請求は、請求権(労災請求や損害賠償請求)の時効消滅を防ぐために、お早めに行動を起こす必要があります。
それだけではなく、重要な証拠の廃棄・散逸や、関係者の記憶減退などを防ぐためにも、できる限り早期に請求を行うことが望ましいことを助言させていただきます。
以下では、(1)遺族(補償)年金、(2)遺族(補償)一時金、(3)葬祭料(葬祭給付)について、順番に詳しくご説明していきます。
(1)遺族(補償)年金
ア 支給要件
遺族(補償)年金を受けるための要件は、
- 被災した労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持していたこと(=生計維持関係)
- 被災した労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹であること
- 妻以外のご遺族の場合は、一定の高齢または年少であるか、一定の障害の状態にあること
の3つであり、①~③の全てを満たす必要があります(ただし、妻は①のみを満たせば足ります)。
支給要件を満たす場合、②のご遺族のうちの最先順位者に対して、ご遺族の人数に応じた金額が支給されます。
他方、これらの要件を満たさないご遺族は、後述の「遺族(補償)一時金」を請求することになります。
(ア)生計維持関係(要件①)
遺族(補償)年金を受けるためには、請求するご遺族が、被災した労働者の「収入によって生計を維持していたこと」(=生計維持関係)が必要です。
被災した労働者とご遺族が同居していた場合は、通常、生計維持関係が認められます。ご遺族が専業主婦(主夫)である場合だけではなく、共働き(共稼ぎ)の場合であっても認められます。
また、同居していなくても、出稼ぎの場合や、定期的な仕送りが行われている場合には、生計維持関係が認められる場合があります。例えば、家を出て独立した子どもが、親に毎月仕送りを行っているような場合です。
(イ)受給資格者(要件②・③)
ご遺族が複数いる場合、次の1)~10)に挙げるご遺族のうち、最先順位のご遺族が受給します。
1)妻、または60歳以上か一定の障害の状態にある夫
2)0歳~18歳までの間にあるか一定の障害の状態にある子
3)60歳以上か一定の障害の状態にある父母
4)0歳~18歳までの間にあるか一定の障害の状態にある孫
5)60歳以上か一定の障害の状態にある祖父母
6)0歳~18歳までの間にあるか60歳以上または一定の障害の状態にある兄弟姉妹
7)55歳以上60歳未満の夫
8)55歳以上60歳未満の父母
9)55歳以上60歳未満の祖父母
10)55歳以上60歳未満の兄弟姉妹
「一定の障害」とは、障害等級第5級以上の身体障害をいいます。
「18歳までの間」とは、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間のことをいいます。
配偶者の場合、婚姻の届出をしていなくても、事実上婚姻関係と同様の事情にあった方(内縁関係)も含まれます。
被災した労働者の死亡当時、胎児であった子は、生まれたときから受給資格者となります。
最先順位者が死亡や再婚などで受給権を失うと、その次の順位の者が受給権者となります(これを「転給」といいます)。
7)~10)の55歳以上60歳未満の夫・父母・祖父母・兄弟姉妹は、受給権者となっても、60歳になるまでは年金の支給は停止されます(これを「若年停止」といいます)。
イ 支給金額
ご遺族のうちの最先順位者に、ご遺族の人数に応じて、遺族(補償)年金、遺族特別年金、及び遺族特別支給金(=一時金として300万円)が支給されます。
具体的な支給金額は、次の表のとおりです。
「給付基礎日額」とは、労災事故の直前3か月間分の賃金総額(ボーナスを除きます)を暦日数で割った金額をいいます。簡単に言うと、賃金を日割り計算した日給のことです。
「算定基礎日額」とは、労災事故の直前1年間に支払われた特別給与(いわゆるボーナス)を365日で割った金額をいいます。
受給権者が2人以上あるときは、その額を等分した額がそれぞれの受給権者が受ける額となります。
年金は、毎年2月、4月、6月、8月、10月、12月の6期に、それぞれの前2か月分が支払われます。
ウ 請求手続(申請手続)
所轄の労働基準監督署に、所定の請求書(業務災害の場合は様式第12号/通勤災害の場合は様式第16号の8)を提出することにより請求します。
請求書には、死亡診断書、戸籍謄本、故人の収入で生計を維持していたことがわかる書類(例:住民票)などを添付します。
具体的な手続の流れは、下記の図をご覧ください。
(2)遺族(補償)一時金
ア 支給要件
遺族(補償)一時金は、遺族(補償)年金を受け取ることのできるご遺族がいない場合などに、ご遺族の中の最先順位者に対して支給されます。
遺族(補償)一時金は、次の1)~4)のご遺族のうち、最先順位のご遺族が受給します。
1)配偶者
2)労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた子・父母・孫・祖父母
3)その他の子・父母・孫・祖父母
4)兄弟姉妹
2)~3)の中では、子・父母・孫・祖父母の順です。
同順位者が2人以上いる場合は、それぞれが受給権者となります。
イ 支給金額
次の①~③の金額が支払われます。
- 給付基礎日額の1000日分(遺族(補償)一時金)
- 算定基礎日額の1000日分(遺族特別一時金)
- 300万円(特別遺族支給金)
「給付基礎日額」とは、労災事故の直前3か月間分の賃金総額(ボーナスを除きます)を暦日数で割った金額をいいます。簡単に言うと、賃金を日割り計算した日給のことです。
「算定基礎日額」とは、労災事故の直前1年間に支払われた特別給与(いわゆるボーナス)を365日で割った金額をいいます。
ウ 請求手続(申請手続)
所轄の労働基準監督署に、所定の請求書(業務災害の場合は様式第15号/通勤災害の場合は様式第16号の9)と、死亡診断書や戸籍謄本等の添付書類を提出することにより請求します。
具体的な手続の流れは、下記の図をご覧ください。
(3)葬祭料(葬祭給付)
労働災害(業務災害や通勤災害)によって死亡した労働者の、葬祭を行う方に対して支給されます。
所轄の労働基準監督署に、所定の請求書(業務災害の場合は様式第16号/通勤災害の場合は様式第16号の10)と、死亡診断書等の添付書類を提出することにより請求します。
葬祭料(葬祭給付)の請求は、通常、遺族(補償)給付の請求と同時に行われることが多いと思われます。
支給内容は、
- 31万5000円+給付基礎日額(=労災事故の直前3か月間の賃金総額を日割り計算した金額)の30日分
- ①の金額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は給付基礎日額の60日分
です。
葬祭料(葬祭給付)の請求権は、ご家族の死亡日の翌日から僅か2年を経過することによって時効消滅してしまいますので、注意が必要です。
2 会社に対する損害賠償請求
(1)労災保険からは、被害全額の補償は受けられない
無事に労災が認められた場合でも、重要であるのは、労災保険からは、被害の全額についての補償を受け取ることはできない、ということです。
労災保険の最も大きな不足は、慰謝料が全く支給されないことです。
労働災害によって、大切なご家族を亡くされたご遺族に、極めて大きな精神的苦痛が発生することは当然です。にもかかわらず、労災保険からは、その精神的苦痛の賠償(慰謝料)を、全く受け取ることができないのです。
しかし、ご家族を亡くされたご遺族(相続人)に認められる損害賠償金の総額は、その中の慰謝料の金額だけでも、あくまで目安ではありますが、2000万円~2800万円が一つの相場とされています。
(2)会社の損害賠償責任
労災保険から支給を受けられない損害(=慰謝料、補償されない減収額、逸失利益等その他の不足額)については、会社に対して補償を求めることが考えられます。
というのも、会社は、労働者に対して「安全配慮義務」(=労働者がその生命・身体等の安全を確保しつつ働くことができるよう必要な配慮をすべき義務)を負っています。
このことから、会社が安全配慮義務に違反したために労働災害に遭ってしまった労働者やそのご遺族(相続人)は、会社に対して損害の賠償を請求することができるのです。
会社の安全配慮義務の違反は、a)業務に対する安全対策の不備、b)設備や備品に対する安全防止装置の不存在、c)従業員に対する指導や教育の不徹底、d)安全な作業計画や作業手順の不制定、e)長時間労働やハラスメントの放置など、様々な場合に認められています。
なお、会社に対する損害賠償請求権は、請求をしないまま時間が経過しますと、時効によって消滅してしまいますので注意が必要です(※令和2年4月に施行された民法の改正により、改正前と後とのいずれの条文が適用される事案であるかによって時効消滅までの期間が異なります。詳しくは弁護士までご相談ください)。
(3)損害賠償を請求できるご遺族(相続人)は
損害賠償を請求できるご遺族(相続人)は、被災労働者に配偶者がいる場合は、①配偶者+被災労働者の子(子が既に亡くなっている場合は孫)です。
子ども等の下の世代がいない場合は、②配偶者+被災労働者の親(両親ともいない場合は祖父母)です。
上の世代も誰もいない場合は、③配偶者+被災労働者の兄弟姉妹(兄弟姉妹が既に亡くなっている場合は甥や姪)が相続人となります。
被災労働者に配偶者がいない場合、損害賠償を請求できるご遺族(相続人)は、①被災労働者の子(子が既に亡くなっている場合は孫)です。
子ども等の下の世代がいない場合は、②被災労働者の親(両親ともいない場合は祖父母)です。
上の世代も誰もいない場合は、③被災労働者の兄弟姉妹(兄弟姉妹が既に亡くなっている場合は甥や姪)が相続人となります。
(4)ご相談をご検討されている皆さまへ
以上のことから、労働災害によってご家族を亡くされたご遺族(相続人)は、安全配慮義務の違反がある会社に対して、損害賠償請求を行うことができます(会社への請求は、申し入れによる話し合いから始めることが通常です)。
しかし、ご遺族(相続人)の中には、労災の認定は受けていても、不足分の補償を受け取るために、会社に対して損害賠償を請求する方法が考えられるということを、ご存知ないという方々が多くいらっしゃいます。
このことは、労災保険からの支給だけでは、被害の一部に対する補償しか受け取れていないにもかかわらず、そのことに気付かないまま、労働災害の問題を終わらせてしまっている方が多くいらっしゃることを意味します。
当事務所は、そのような理不尽がまかり通ることのないよう、本サイト等によって問題の周知に努めるとともに、ご遺族の方々が、正当な補償を受け取ることができるように全力を尽くします。
お悩みの方や、弁護士に訊いてみたいことがあるという方は、ぜひ一度、当事務所にご相談なさってみてください。