労災事故 事故状況別:やけど・感電

1 やけど・感電の事故で正当な補償を受け取るために

やけど(熱傷)や感電の労災事故によって、

  • 働くことができなくなってしまった場合
  • 身体に後遺障害(後遺症)が残ってしまった場合
  • 大切なご家族を亡くされてしまった場合

等には、ご自身やご家族の生活を守るためにも、適切な補償を受け取ることが必要不可欠であるはずです。

このような場合に、正当な補償を受けるためには、大きく、

  • 労災の請求(申請)
  • 会社に対する損害賠償請求

の2つの方法が考えられます。

このページでは、やけど(熱傷)や感電の労災事故に遭ってしまった場合の、それぞれの方法の内容について、詳しくご説明していきます。

2 労災の請求(申請)

(1)やけど・感電の事故とは

やけど(熱傷)の労災事故は、高温の機械や液体などとの接触や、火災・爆発などに巻き込まれることによって発生する労働災害です。

感電の労災事故は、主に電気設備や配線などとの不適切な接触を原因として、人体に電流が流れることによって発生する労働災害です。

いずれも、重い後遺障害や、場合によっては死亡の結果にも繋がりかねない、深刻な労災事故であると言えます。

(2)やけど・感電の事故の労災請求(労災申請)

仕事によって、やけど(熱傷)や感電の事故に遭われた労働者の方々は、以下のとおり、労災の請求(申請)を行うことができます。

ア 療養(補償)給付

医療費について、「療養(補償)給付」を請求することにより、労災保険指定医療機関で無料での治療を受けることができます。また、それ以外の医療機関で治療を受けた場合でも、かかった医療費の支給を受けられます。 

イ 休業(補償)給付

休職したことによる減収について、「休業(補償)給付」を請求することにより、休業1日当たりの日給の80%の支給を受けることができます(ただし、残りの20%やボーナス分の支給を受けることはできません)。

ウ 障害(補償)給付

治療終了後に後遺障害(後遺症)が残ってしまった場合には、「障害(補償)給付」を請求することにより、労働基準監督署が認定した後遺障害等級の重さに応じて、年金や一時金の支給を受けることができます。

エ 遺族(補償)給付/葬祭料(葬祭給付)

労働者ご本人が亡くなってしまった場合、ご遺族は、「遺族(補償)給付」を請求することにより、労働者とご遺族との関係や生活状況などに応じて、年金や一時金の支給を受けることができます。ご葬儀を執り行ったご遺族は、「葬祭料(葬祭給付)」を請求することもできます。

ア~エの請求先となるのは、いずれも労働者の勤務先(事業場)を管轄する労働基準監督署長です。

ただし、労災保険指定医療機関で治療を受けている場合の「療養(補償)給付」については、治療を受けている病院に労災請求用紙を提出します。

労災の請求について、より詳しくお知りになりたい方は、別ページの「労働災害とは?基礎知識と請求(申請)手続の流れ」をご覧ください。

また、労災の請求についてお悩みの方や、弁護士に訊いてみたいことがあるという方は、ぜひ一度、当事務所にご相談なさってみてください(相談料は無料です)。

3 会社に対する損害賠償請求

無事に労災が認められた場合でも、労災保険からは、被害の全額についての補償を受け取ることはできません。

例えば、労災保険からは、休職したことによる減収について、全額の補償を受けることはできません。そして何よりも、労災保険の最も大きな不足は、慰謝料が全く支給されないことです

このため、労災保険から支給を受けられない損害(=慰謝料、補償されない減収額、逸失利益等その他の不足額)については、会社に対して損害賠償の請求を行うことが考えられます。

というのも、会社は、労働者に対して「安全配慮義務」(=労働者がその生命・身体等の安全を確保しつつ働くことができるよう必要な配慮をすべき義務)を負っています。

このことから、会社が安全配慮義務に違反したために労災事故に遭ってしまった労働者やそのご遺族(相続人)は、会社に対して損害の賠償を請求することができるのです。

会社の安全配慮義務の違反は、①業務に対する安全対策の不備、②設備や備品に対する安全防止装置の不存在、③従業員に対する指導や教育の不徹底、④安全な作業計画や作業手順の不制定など、様々な場合に認められています。

(1)自分にも過失(落ち度)があった場合は

労災事故の発生について、ご自分にも過失(落ち度)があると考えられる場合や、会社からそのように言われている場合などには、会社への損害賠償の請求をあきらめたり、ためらわれる方もいらっしゃいます。

しかし、会社に安全配慮義務の違反があれば、労働者に何らかの過失(落ち度)がある場合でも、賠償金が一定割合の減額を受けるだけで、会社に対して損害賠償を請求することができます

この場合に賠償金が減額される割合は、労働者の過失の程度に応じて決まります(このような減額のことを、過失相殺と言います)。

(2)他の労働者の過失(落ち度)が原因であった場合は

他の労働者の過失(落ち度)によって発生してしまった労災事故についても、その労働者を雇用している会社に対して、損害賠償を請求することができます(この場合に会社が負う責任を、使用者責任と言います)。

このことは、報償責任という考え方に基づきます。すなわち、会社は、労働者を雇用して、会社のために働いてもらうことによって利益を得ています。このため、雇用している労働者が原因となって、逆に損害が生じてしまった場合にも、利益を取得していることと同様に、損害について負担するべきであるというのが報償責任の考え方です。

他の労働者の過失による労災事故の場合、ミスをした労働者個人に損害賠償を請求しても、高額な賠償金を支払える資力がないことが通常です。このことから、実務では、会社に対して損害賠償を請求することが多いと言えます。

(3)やけど・感電の事故の裁判例

やけど(熱傷)や感電の労災事故は、日本各地で発生しています。

ここでは、会社から被害者に対し、どのような事故に、どれだけの賠償金が認められているのかについて、各地の裁判例をご紹介します。

裁判例①:東京地方裁判所 平成28年7月19日判決

被害者

お弁当の製造販売を行う会社で、配達作業に従事する従業員

事故の態様

被害者が、配達のため味噌汁の鍋の蓋を開けたところ、沸騰した味噌汁が飛散した。

これにより、被害者は、両前腕部、胸部、腹部の広範囲、及び左頬に熱傷を負った(労災保険の休業補償給付を受給していない事例)。

結論

会社から被害者に対する賠償金として、約250万円(と遅延損害金)が認められた。

判決の要旨

  • 会社は、被害者に対し、味噌汁の入った鍋が熱くなるので、運搬するときに注意するなどの口頭での注意喚起をせず、書面の作成もなく、火傷・熱傷災害を防止するための安全教育をしていなかった。
  • 会社は、安全配慮義務を怠り、本件鍋の味噌汁は、沸騰し蓋を跳ね上げて噴き出す危険な状況で、蓋を開けてはならないのに、副店長が、蓋を開けたら早く冷めるという誤った指示を出した結果、本件事故が発生したものであるから、会社には損害を賠償すべき責任がある。

裁判例②:福岡地方裁判所 平成25年11月13日判決

被害者

菓子種(かしだね)の製造販売会社の労働者

事故の態様

被害者が、最中(もなか)の皮の焼成作業に従事していた際、焼成機の金型に左手の親指を挟まれて火傷を負った(労災保険の療養補償給付と休業補償給付を受給している事例)。

結論

会社と取締役から被害者に対する賠償金として、約190万円(と遅延損害金)が認められた。

判決の要旨

  • 被害者の労務は、金型が約150℃の高温に達する最中皮の焼成作業であり、焼成機には、誤って人体が挟まれないような、あるいは、誤って人体が挟まれてしまったら直ちに解放できるような安全装置がなかった。
  • 会社は、最中皮の焼成作業に従事したのが10回程度の被害者に対し、金型に手指が挟まれた場合の解放方法の教育を十分にしないまま、事故防止のための監督や事故発生の場合に直ちに支援できる者のいない状況で労務をさせ、被害者に対する安全教育や、作業状況に問題がないか適切に監督する等の配慮を怠った。
  • したがって、会社は、被害者に対する安全配慮義務違反による不法行為責任を免れない。

(4)やけど・感電の事故のご相談をご検討されている皆さまへ

このように、やけどや感電の労災事故に遭われてしまった労働者やそのご遺族(相続人)は、安全配慮義務の違反がある会社に対して、損害賠償請求を行うことができます(会社への請求は、申し入れによる話し合いから始めることが通常です)。

当事務所は、労働災害の被害に遭われた皆さまが、正当な補償を受けられるよう全力を尽くします。

お悩みの方や、弁護士に訊いてみたいことがあるという方は、ぜひ一度、当事務所にご相談なさってみてください。

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