過重労働の疑いによる大動脈解離で美装職員が死亡、勤務先は資力に不安のある小規模会社⇒労災認定と、会社の不動産に仮差押えを行い賠償金を獲得した事件
1 ご依頼の内容
ご遺族から、労災の請求(申請)と勤務先会社に対する損害賠償請求をご依頼いただきました(本件は、他事務所の弁護士と共同受任し、当事務所の代表弁護士が主任弁護士を務めました)。
2 事案の概要
ご本人(30代男性)は、主に建築現場の美装業務に従事する職員でしたが、勤務先会社の倉庫で急性大動脈解離を発症し、死去されました。
残されたご遺族は、ご本人の死亡は労働災害(過労死)ではないかと考え、当方に相談に来られました。
本件では、ご本人が過重労働の状態に陥っていたことが疑われました。
しかし、勤務先会社は、ご本人の長時間労働を認めず、会社の責任を全面的に否定していました。
また、勤務先会社は、社員数の少ない非常に小規模の会社でした。そのため、損害賠償を請求したとしても、死亡による高額な賠償金を支払える資力があるのかについて、大きな不安がある状況でした。
このように、本件は、労働災害の中でも難易度の高い過労死の事件であることに加えて、勤務先会社に賠償金を支払える資力があるかが不透明であったことから、弁護士にとって非常に高難度と言える事件でした。
3 労災の請求(申請)
まず、管轄の労働基準監督署に、遺族補償給付の労災請求(申請)を行いました。
大動脈解離を含む脳・心臓疾患が労災認定されるためには、労働者の時間外労働時間が、①いわゆる「過労死ライン」と呼ばれる長時間労働の水準に達するか、②少なくともこれに近い労働時間であると認められることが必要です。
このことから、労災の認定を得るためには、労働基準監督署に対して、積極的に長時間労働の事実を証明していくことが重要になります。
本件では、ご本人の労働時間を確認できる資料が、建築現場などでの作業時間が記載された作業報告書しか残されておらず、これに基づいて計算した労働時間は、労災と認められる水準に達していませんでした。
しかし、当然のことながら、勤務先会社から建築現場へ出向くためには、そのための移動時間が必要になります。
このため、当方で、それぞれの労働日における建築現場の住所を確認するとともに、勤務先会社からその日の現場の住所までにかかる移動時間を、距離計測サイトを利用して一つ一つ計算していきました。そして、現場での作業時間に、現場までの全ての往復の移動時間を加えたところ、ご本人の時間外労働時間が「過労死ライン」を超えていることがわかりました。
その上で、労働基準監督署に対して、弁護士名での意見書を提出し、ご本人の長時間労働の実態を詳細に伝えました。
これらの弁護活動の結果、ご遺族に労災が認められ、労災保険から遺族補償年金を受給できることになりました。
4 会社に対する損害賠償請求
労災が認定されたことを受けて、当方は、勤務先会社に対して、会社が安全配慮義務に違反したことを理由とする損害賠償請求を行うことにしました。安全配慮義務違反の根拠は、会社がご本人に長時間労働を行わせていたことです。
問題は、勤務先会社は、社員数の少ない非常に小規模の会社であり、死亡による高額な賠償金を支払える資力があるのかが不透明なことでした。
しかし、勤務先会社の不動産を調べたところ、会社の土地と建物のいずれにも、抵当権が設定されていないことがわかりました。
そのため、当方は、裁判を起こす前に、勤務先会社の不動産(土地及び建物)の仮差押えを行いました。
仮差押えとは、裁判所に申し立てをして、不動産の処分(売買や贈与など)を禁止してもらう措置をいいます。
仮差押えを行った場合、裁判で勝訴した後に、それまで処分を禁止されていた不動産を競売にかけてもらうことによって、その売却代金の中から損害賠償金を受け取ることができるようになります。
また、仮差押えは不動産登記に記載されますので、仮差押えを受けた会社には、早期に賠償金を支払って、仮差押えを抹消してもらおうという積極的な動機が生まれます。
その上で、当方は、勤務先会社だけではなく、社長個人にも損害賠償を請求する裁判を起こし、会社側に対して、支払いに対する強いプレッシャーをかける戦略をとりました。
これらの弁護活動の結果、ご遺族が、労災保険からの給付金とは別に、勤務先会社から賠償金の支払いを受けることによる裁判上の和解を成立させることができました(会社は、金融機関から借入れをして、できる限りの金額を用意したようです)。
5 ご依頼の結果
労働基準監督署から労災認定を獲得するとともに、労災保険からの遺族補償年金とは別に、勤務先会社から賠償金の支払いを受けることができました。また、賠償金の金額についても、会社の不動産の評価額を上回る金額で和解することができました(ご遺族のご意向により、和解額の公表は控えさせていただきます)。
ご依頼いただいた弁護士としても、労災保険からの給付金に加えて、資力に不安のある会社から賠償金の支払いを受けることができ、非常に喜ばしい解決になったと受け止めています。
当事務所は、事件の大量処理を行うのではなく、一つ一つのご依頼に全力を挙げて取り組んでいます。
お悩みの方や、弁護士に訊いてみたいことがあるという方は、ぜひ一度、当事務所にご相談なさってみてください。
