労災事故について、弁護士へ相談・依頼するタイミングは、以下の理由から、できる限り早い方が望ましいと言えます。
1 様々な不利益から身を守るために
労災事故の被害に遭われた方々は、お怪我やご病気のために、肉体的にも精神的にも大変な状況に置かれているにもかかわらず、会社等から様々な判断を求められることが少なくありません。
しかし、専門家に相談しないまま、ここで安易な対応をとってしまったために、取り返しのつかない不利益が生じてしまうこともあり得ます。
一つの例としては、会社との間に、退職についての合意書を作成しようとする場合が挙げられます。労災事故によって働けなくなってしまった場合に、会社からの退職の求めを受け入れて、当面の生活費のために退職金を取得しようと考える方は数多くいらっしゃいます。
ここで重要なのは、退職するに当たって、退職金等の内容を明確にするために、会社から合意書への署名・押印を求められることが少なくないということです。ところが、このような合意書には、多くの場合、清算条項(=当事者間に、当該合意書に定める以外の債権債務がないことを確認する条項)が盛り込まれています。そして、清算条項付きの合意書に署名・押印をしてしまった場合には、その後、会社に対して損害賠償請求等を行うことができなくなるおそれが生じてしまうのです。
以上のことは、あくまで一例に過ぎません。被害者の方々の身に降りかかる不利益は、事前に弁護士に相談し、注意事項を確認しておくことによって防ぐことができます。労災事故に伴う様々な不利益から身を守るために、早いタイミングで弁護士に相談や依頼をしておくことには、大きなメリットがあると言えます。
2 証拠の散逸や廃棄を防ぐために
労災事故から時間が経過してしまうと、正当な補償を受けるために必要となる証拠(各種の書面や映像など)が、散逸して見つからなくなってしまったり、不要なものとみなされて廃棄されてしまう危険が高まります。
また、労災事故についての事情を知る関係者がいる場合でも、時間が経過すれば、記憶が減退して詳細を忘れてしまったり、退職や転居などによって連絡が取れなくなってしまう等、貴重な証言を得られなくなってしまう恐れが生じます。
労災の請求においても、会社に対する損害賠償請求においても、客観的な証拠や、事情を知る関係者の証言が重要になる場合は多々あります。
弁護士に早いタイミングで相談や依頼をし、早期に必要な行動をとってもらうことは、正当な補償を受けられる可能性を高めることになります。
3 請求権の時効消滅を防ぐために
労災の請求(申請)や、会社に対する損害賠償請求は、いつまでも請求が認められるわけではなく、消滅時効による請求期間の制限を受けます。
まず、主な労災保険給付を請求できる期間は、以下のとおりです。
- 労働災害により休職した被害者に支給される「休業(補償)給付」は、労働できず賃金を受けない日ごとにその翌日から2年
- 労働災害によって後遺障害を負ってしまった被害者に支給される「障害(補償)給付」は、傷病が治ゆした日(症状固定日)の翌日から5年
- 労働災害の被害者のご遺族に支給される「遺族(補償)給付」は、死亡日の翌日から5年/「葬祭料(葬祭給付)」は、死亡日の翌日から2年
これらの期間を経過すると、請求権が時効により消滅し、労災を請求することができなくなってしまいます。
また、会社に対する損害賠償請求は、労災の認定を受けた後に行うことが多いですが、この損害賠償請求権にも消滅時効があります(※ 令和2年4月に施行された民法の改正により、事案によって時効消滅までの期間が異なりますので、詳しくは弁護士までご相談ください)。
このように、労災保険給付を請求する権利も、会社に対する損害賠償請求権も、時効期間が経過することにより消滅してしまいます。
これらの請求権の時効消滅は、弁護士に早いタイミングで相談や依頼をし、早期に必要な手続をとってもらうことによって防ぐことができます。
以上のとおり、弁護士へ相談・依頼するタイミングは、できる限り早い方が望ましいと言えます。
お悩みの方や、弁護士に訊いてみたいことがあるという方は、ぜひ一度、当事務所にご相談なさってみてください。