医師らの過度な叱責により病院職員が自死、労基署は労災と認めない決定⇒再審査請求で逆転の労災認定と、勤務先から5500万円の解決金を獲得した事件
1 ご依頼の内容
ご遺族から、労災の認定と、勤務先に対する損害賠償請求をご依頼いただきました(本件は、他事務所の弁護士と共同受任し、当事務所の代表弁護士が主任弁護士を務めました)。
2 事件の概要
自死されたご本人(40代男性)は、北海道内の病院に勤務する職員でした。
ご本人は、他の職員らも居合わせる場で、医師から過度な叱責を受けた他、上司からも繰り返しの叱責を受けていたことにより、職場に出勤することができなくなり、休職中に自死されました。
残されたご遺族は、ご本人の自死は労働災害ではないかと考え、当方にご相談に来られました。
本件では、ご本人の生前のノートに、休職の前日に医師から受けた叱責内容の一部が記載されていました。
しかし、当然ながら、亡くなられたご本人から、それ以上の詳しいお話をお聞きすることは不可能でした。また、叱責の録音などの客観的な証拠もありませんでした。
3 労災の認定
まず、管轄の労働基準監督署に労災請求(申請)を行いましたが、労基署は労災と認めませんでした。このため、労働局の労災保険審査官に対する不服申立て(審査請求)を行いましたが、結論は変わりませんでした。
労基署や審査官が労災と認めなかった理由は、医師と上司が叱責を行ったことは確認できても、「執拗」に行われたとは認められないという点にありました。
そのような認定は到底納得できるものではなく、当方は、労働保険審査会に対して、労災の認定を求める再度の不服申立て(再審査請求)を行いました。
再審査請求を行うと、労基署が収集・作成した全ての関係資料が開示されます。本件でも、労働保険審査会から、大量の関係資料の交付を受けることができました。
そして、関係資料の中には、ご本人が問題の上司と一緒に外勤(他の病院や施設へのあいさつ回り)に出かける際に、毎回のように頻繁に叱責を受けていたとする同行者からの聴取書が含まれていました。
これに対して、労働局の審査官は、ご本人と上司が一緒に外勤をしたのは直近1年で2日間のみであるから、叱責が「執拗」であったとは認められないと結論していました。
ところが、当方が1000枚を超える関係資料を丹念に精査・分析したところ、ご本人と上司は、審査官が認定した2日間に加えて、最大で16日間、一緒に外勤をした可能性のあることがわかりました。
このため、当方は弁護士名での意見書を提出し、労働保険審査会に対して、①ご本人と上司が一緒に外勤をしたことが、2日間だけではなく相当日数あったと考えられること、②そのような外勤の度に、毎回のように叱責を受けていたならば、それは十分に「執拗」と言えることから、本件に労災が認められるべきであることを詳細に主張しました。
これらの弁護活動の結果、労働保険審査会は、ご本人の自死が労働災害であることを認め、労災の不支給決定を取り消す裁決を下しました。
これにより、ご遺族は、労働基準監督署から改めて労災の認定を受け、労災保険から遺族補償年金を受給できることになりました。
4 勤務先に対する損害賠償請求
労災が認定されたことを受けて、当方は、勤務先病院に対して、ご本人が亡くなられたことについての損害賠償請求を行いました。
勤務先に損害賠償を請求する根拠は、問題の医師と上司を雇用していたことの使用者責任と、両名による叱責を防止することができなかった安全配慮義務違反です。
勤務先病院も弁護士を立てての交渉となりましたが、病院側から提案された和解額は不十分な金額であったため、話し合いは決裂し、裁判を起こすことになりました。
病院側も、裁判では徹底抗戦の構えをとったことから、当方も、裁判所に対して最長で70ページを超える詳細な主張書面を提出し、病院の責任を厳しく追及しました。
裁判は、再審査請求で労災認定を獲得していることもあり、全体として当方に有利な形勢で進んでいきました。
もっとも、裁判中に和解をせずに、判決を求める場合には、関係者の証人尋問が行われることが通常です。
本件では、労基署からの事情聴取に対して、労災認定の助けになる供述をしてくれた病院関係者が少なからずいらっしゃいました。
そして、ご遺族には、そのような関係者の方々に、裁判所で証人尋問を受けるご負担をおかけしたくないとのお気持ちが強くありました。
このことから、当方は、請求額から一定の減額を受け入れることとし、労災保険からの給付金とは別に、勤務先病院から5500万円の解決金の支払いを受けることによる裁判上の和解を成立させることとしました。
5 ご依頼の結果
労働保険審査会への再審査請求によって労災認定を獲得するとともに、労災保険からの給付金とは別に、勤務先病院から5500万円の支払いを受けることができました。
ご遺族は、労災保険から遺族補償年金が給付される上、勤務先から、裁判前の提示額を大きく超える金額の解決金を受け取ることもできました。
裁判が終わったからといって、当然ながら時間を巻き戻せるわけではありませんが、今般の労災認定と和解が、ご遺族のご心痛を僅かでも和らげる一助になることを願っています。
当事務所は、事件の大量処理を行うのではなく、一つ一つのご依頼に全力を挙げて取り組んでいます。
お悩みの方や、弁護士に訊いてみたいことがあるという方は、ぜひ一度、当事務所にご相談なさってみてください。
