労災事故 ケース別:労災の結果に納得できない

1 労災の結果に納得できない場合

労働災害の被害に遭われた方々やご遺族が、その負傷や死亡に対する補償を受け取るためには、まずは所轄の労働基準監督署に対して、労災の請求(申請)を行うことが考えられます。

労災の請求を受けた労働基準監督署は、各種の証拠や資料を収集し、事実関係を調査した上で、労災の支給または不支給の決定を行います。

しかし、労働基準監督署の下した決定が、被災した労働者の方々やご遺族にとって、納得できるものであるとは限りません。

労災の結果に納得できない典型的なケースとしては、

  1. 労災であることが認められず、労災不支給とされた場合
  2. 労災であることは認められても、認定された後遺障害等級が低い場合

が挙げられます。

特に、労災が不支給とされる①のケースは、

  • 脳疾患や心臓疾患による障害・死亡(いわゆる過労死)
  • 自死(自殺)

の事案で多く見られます(このことが、弁護士にとって、過労死や自死が難易度の高い労働災害であると言われる理由です)。

労働基準監督署から、労災不支給の決定を受けてしまった場合や、認定された後遺障害等級に納得できない場合などには、決定の取消や変更を求めるための制度として、

  • 審査請求(労働者災害補償保険審査官に対する不服申立て)
  • 再審査請求(労働保険審査会に対する不服申立て)
  • 行政訴訟(裁判所に対して、労基署の決定の取消を求める訴訟)

という3つの方法が用意されています。

以下では、これらの方法の内容について、詳しくご説明していきます(いずれの方法も、手続きをとることのできる期間が短いですので、注意が必要です)。

2 審査請求

(1)審査請求の手続き

労働基準監督署の決定に不服がある労働者やご遺族は、審査請求を行うことにより、決定の取消や変更を求めて争うことができます。

審査請求は、決定をした労働基準監督署の所在地を管轄する都道府県労働局(北海道の場合は北海道労働局)に置かれた、労働者災害補償保険審査官に対して行います。  

審査請求を受けた審査官は、必要に応じて、請求人に対する聴取の他、追加の証拠の収集、関係者の聴取または再聴取、事件記録の再分析などを行った上で、労働基準監督署の決定を取り消すか、または取消を認めずに審査請求を棄却するかを決定します。

審査官が決定を取り消した場合、労働基準監督署は、審査官の判断に基づいて決定をやり直すことになります。

(2)審査請求の留意点

審査請求を行うことができる期間は、労働基準監督署の決定があったことを知った日(=通常は、決定を受け取った日)の翌日から起算して3か月以内とされています。請求できる期間が短いですので、早期の行動が必要です。

また、審査請求を行った場合でも、一度決まった労働基準監督署の決定を取り消させることは容易ではありません。希望する結果を得るためには、労災を請求する段階にも増して、証拠に基づいた説得力のある主張を行うことが肝要です。

このことに関して、労働基準監督署が決定を行った後には、労働基準監督署の関係書類(労基署が収集した資料や作成した書面)について、個人情報保護法に基づく開示を請求することができます。開示請求は、決定を行った労働基準監督署の所在地を管轄する都道府県労働局長(北海道の場合は北海道労働局長)宛てに行います。

開示を受けられるのは関係書類の一部にとどまりますが、それらに記載された内容は、説得力のある主張を組み立てるための重要な手掛かりになります。

3 再審査請求

(1)再審査請求の手続き

審査請求が棄却された場合、不服のある労働者やご遺族は、再審査請求を行うことによって、再度、労働基準監督署の決定の取消や変更を求めて争うことができます。

再審査請求は、厚生労働省に置かれた労働保険審査会に対して行います。

労働保険審査会は、原則として3名の委員で構成され、労働基準監督署の決定を取り消すか、または取消を認めずに再審査請求を棄却するかの裁決を行います。審査会の委員は、元裁判官、医師、学者などの有識者が務めています。 

労働保険審査会が決定を取り消した場合、労働基準監督署は、審査会の裁決に基づいて決定をやり直すことになります。

(2)再審査請求の留意点

再審査請求を行うことができる期間は、審査請求の決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2か月以内とされています。請求できる期間が短いですので、迅速な行動が必要です。

なお、早期に裁判所の判断を受けたい場合には、再審査請求を行わずに、後述する行政訴訟を提起することも可能です。

再審査請求を行った場合でも、審査請求の場合と同様、一度決まった労働基準監督署の決定を取り消させることは容易ではありません。証拠に基づいた説得力のある主張を行わなければ、望む結果を得ることは難しいのが実情です。

このことに関して、再審査請求を行った請求人には、労働基準監督署が収集・作成した記録の一式(原則)が交付されます。これは、労働基準監督署が下した判断の全体像を知ることができる、極めて重要な資料です。

請求人としては、交付された記録を丹念に分析・検討することによって、審査会を説得するための主張を組み立てることになります。

4 行政訴訟

(1)行政訴訟の手続き

審査請求や再審査請求によっても結論が変わらない場合、不服のある労働者やご遺族は、裁判所に訴訟(行政訴訟)を提起することにより、労働基準監督署の決定の取消や変更を求めて争うことができます。

この訴訟は、決定をした労働基準監督署の所在地を管轄する地方裁判所に提起することが多いですが、北海道にお住まいの方が原告(提訴者)となる場合、札幌地方裁判所に提起することも可能です。

訴訟を行った結果、裁判所が決定を取り消す判決(勝訴判決)を言い渡し、その判決が確定した場合には、労働基準監督署は、裁判所の判決に基づいて決定をやり直すことになります。

(2)行政訴訟の留意点

行政訴訟は、

  1. 再審査請求を行わない場合
    =審査請求の決定があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内
  2. 再審査請求を行った場合
    =再審査請求の裁決があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内

に提訴しなければなりません(また、決定・裁決の日から1年以内に行う必要があります)。提訴できる期間が限られていますので、早期の行動が必要です。

行政訴訟を提起した場合でも、審査請求や再審査請求の場合と同様、一度決まった労働基準監督署の決定を取り消させることは容易ではありません。

行政訴訟で勝訴するためには、証拠の適切な評価を行った上で、説得力のある主張を組み立てることが必要であり、労災事件に取り組む弁護士の力量が問われることになります。

5 ご相談をご検討されている皆さまへ

このように、労災の結果に納得できない場合には、労働基準監督署の決定の取消や変更を求めるための制度として、1)審査請求、2)再審査請求、3)行政訴訟という3つの方法が用意されています。

しかし、これまでに述べてきたとおり、いずれの方法によっても、一度決まった決定を取り消させることは容易ではありません。

これらの方法によって、労働基準監督署の決定の取消や変更を認めてもらうためには、厚生労働省の定める基準を念頭に置いた上で、必要となる証拠を収集し、それらに基づいて主張を組み立てる作業が重要です。

当事務所の代表弁護士は、これらの方法によって、労働基準監督署の決定を取り消させた複数の実績を有しており、依頼者様が正当な補償を得られるよう全力を尽くします。

お悩みの方や、弁護士に訊いてみたいことがあるという方は、ぜひ一度、当事務所にご相談なさってみてください。

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