1 労災事故で仕事を休んだら
労災事故による怪我や病気のために仕事を休むことになった場合には、労働者の勤務先(事業場)を管轄する労働基準監督署に対して、労災保険の「休業(補償)給付」の請求(申請)を行うことができます。
「休業(補償)給付」を受けるための要件は、
- 業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養であること
- 労働することができないこと
- 賃金を受けていないこと
の3つであり、①~③の全てを満たす必要があります。
また、「休業(補償)給付」を受給できるのは、休業開始4日目からです(休業初日から3日目までは支給されず、この3日間を「待機期間」といいます)。
なお、労災保険給付の名称については、業務災害の場合には「補償」が付きますが(○○補償給付)、通勤災害の場合は「補償」が付きません(○○給付)。
「休業(補償)給付」の場合、業務災害であれば「休業補償給付」、通勤災害であれば「休業給付」が名称です。
2 「休業(補償)給付」の請求手続き
労災保険の「休業(補償)給付」は、労働者の勤務先(事業場)を管轄する労働基準監督署に対して、所定の請求書(業務災害の場合は様式第8号/通勤災害の場合は様式第16号の6)を提出することにより請求します。
請求書には、主治医の先生に、療養のために労働することができなかった期間などを記載(証明)してもらう必要があります。
具体的な手続きの流れは、下記の図をご覧ください。
支給される金額は、休業1日につき、「給付基礎日額」の80%(=保険給付として60%+特別支給金として20%)です。
「給付基礎日額」とは、労災事故の直前3か月間分の賃金総額(ボーナスを除きます)を暦日数で割った金額をいいます。簡単に言うと、賃金を日割り計算した日給のことです。
なお、「休業(補償)給付」は、働くことができず、賃金を受けない日ごとに請求権が発生しますが、その翌日から2年を経過すると、時効により請求権が消滅してしまいます。
このことから、遅くとも2年以内に、労働基準監督署に請求(申請)を行う必要があります。
3 「休業(補償)給付」が認められたら
(1)「休業(補償)給付」の受給
「休業(補償)給付」が認められた場合、上述のとおり、休業1日につき、「給付基礎日額」の80%(=保険給付として60%+特別支給金として20%)の支給を受けることができます。
ただし、労災保険からは、不足分の残り20%やボーナス分の支給を受けることはできません。
これらを受け取るためには、安全配慮義務の違反が認められる会社に対して、別途、損害賠償の請求を行う必要があります(この場合には、制度上、不足分の20%ではなく、〔給付基礎日額の40%×休業日数〕を請求することができます)。
また、「休業(補償)給付」の受給中に、勤務先を退職した場合であっても、変わらず支給を受け続けることができます(労働者災害保障保険法第12条の5)。
他方、労働者が、一定の重篤な障害(=傷病等級の1級~3級に該当する傷病)を負い、療養開始後1年6か月を経過しても治ゆ(症状固定)しない場合には、労働基準監督署長の決定により、「傷病(補償)給付」が支給されます。
「傷病(補償)給付」を受給することになった場合は、「休業(補償)給付」は支給されなくなります。
「傷病(補償)給付」の要件を満たさない場合は、引き続き「休業(補償)給付」が継続します。
(2)「症状固定」の診断
怪我や病気の治療を続けていると、いずれ主治医の先生から、「症状固定」との診断を受け、ひとまずの治療を終える時期がやって来ます。
「症状固定」とは、完治に至らなくても、傷病の状態が安定し、治療してもこれ以上の改善が見込めない状態のことをいいます。
「症状固定」により治療が終了すると、「休業(補償)給付」の支給は終了することになります。
そして、「症状固定」と判断されたときに、身体に一定の後遺障害(後遺症)が残ってしまっている方々は、後遺障害に対する補償として、所轄の労働基準監督署に対して、新たに「障害(補償)給付」の請求(申請)を行うことができます。
「障害(補償)給付」に関する手続きは、こちらをご覧ください。
なお、労災保険では、「症状固定」について「治ゆ」という用語が用いられます。しかし、傷病が完治していない場合に「治ゆ」という言葉を使うことには違和感があり、一般的に、後遺障害が残る場合は「治ゆ」のことを「症状固定」と呼ぶことが多いです。